WORLD-14-
「煉、次の予定は?」
叔父さんが次の予定を尋ねる。
ミラー越しに田所の姿を盗み見る。
いつも通り彼はぼうっと外を眺めていた。
ただ、その雰囲気はほんの少しだけ沈んでいるようにも見えた。
ダニエル・ショシャンが死んだ。同時に彼のしてきた事が分かった時、田所は一言、
――惜しい人材を亡くした。
それだけ呟くと、彼との関係の一切を抹消した。
その言葉を聞いても、俺の心は動かなかった。
普段以上に穏やかだった。
何も感じていなかったのかもしれない。
田所はどう思ったのだろうか。
「8時半から――。」
いつも通り、車内で一日の予定を再度確認しながら目的地に向かう。
空は青かった。
太陽はまた昇った。
何も変わらなかった。
本当に何も。
何も感じないような、何かを感じているような。そんな心境を不思議に思う。
良いのか悪いのかさえ分からない。
ただ訳も分からず不思議な心地よさだけが残る。
薄情なのだろうか。
自分は他より感情の起伏は少ないかもしれない。
しかしそれは自身の感情をそそるものが少ないからそうであるだけだと自覚している。
もしそれが仮に興味の対象であるなら、俺は自身に狂気すら感じる。
俺にとって彼はその程度だったのか。
分からなかった。
では何故一緒にいたのか。
何故俺は同じ時間を過ごす事を選択したのか。
明らかに違った。
でなければそういう行動に出ていない。
では、何故―――。
「煉。」
叔父さんから声がかかる。
その声で我に返る。
「……すいません。」
少し俺を訝しむ様に眺めた後、視線を手元の書類に戻す。
車内は静かだった。
ただ叔父さんのあの眼は少し優しい気もした。
気のせいかもしれない。
気のせいなのだろう。
一日が終わる。いつの間にか終わっていた。
時間を無駄にした気がした。
何かが足りていない。
心は穏やかだった。
違和感。
これは俺ではない。
必死で取り戻そうとする。
圧倒的に足りていないのだ。
分かっていた。
それが重みだということを。